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第八章 islands

島の成り立ち

空路でミクロネシアの島々へ行くと、機内から見下ろす海と島の美しさに驚く。
深い紺碧の外洋から寄せた波は、島の周りに張り出したコーラルリーフにぶつかって砕け、波が白いレースのように連なっている。その内側はエメラルドグリーンやブルーのインリーフ(内海)。そして海岸線からなだらかにかけ上がる緑の山並み。このような美しい景観があるのはグアムやポンペイ、コスラエのように高い山をもつ島だ。
逆に、チュークやマーシャルなど平坦で小さな島じまがネックレスのように続く環礁の島は、まさにイメージ通りの南国風景。
東へ西へとアイランズホッピングすると、夢のようなシーンが次々と眼下に広がる。

 ミクロネシアの島々は、太古に海底から噴出した海底火山脈からできたのだという。海面上に姿を現した火山が後に沈下あるいは隆起して、その周りや上にサンゴが成育した。
 大雑把に分けると、ミクロネシアには三つの島のタイプがある。 
 一つは火山活動の力によって、深海からそそり立つ山脈のような一角が、ちょこんと海面上に姿をだしている火山島。二つ目は高い山がなく平坦で低い島。もう一つは「真珠の首飾り」と例えられたマジュロのような環礁島「アトール」だ。 

 平たく低い島は、海面下にある海底火山の上にサンゴ礁が発達し、台地のようになったサンゴ礁島。環礁島「アトール」というのは上空から見るとひょろひょろした細長い一本道のような地形で、沈下した太古の火山島の海岸線に沿ってサンゴが発達しできた帯状の島だ。

 チューク諸島(環礁)は、細長い紐のようなサンゴ礁島が約200キロメートルも続く。ミクロネシアでは他にマーシャル諸島やキリバス諸島にこの地形が多く、なかでもマーシャル諸島のクワジェリン島は世界でも有数の巨大環礁だ。
 そしてこれら海抜数メートルしかない環礁島は、このまま地球の温暖化が進むと海面下に沈没してしまうと危惧されている。
 
 島じまの地形の特徴として、周囲に張り出したサンゴ礁も重要だ。
 正確には堡礁(バリアリーフ)や、裾礁(フリンジングリーフ)と呼ばれるが、これらは気が遠くなるほどの歳月をかけて発達したサンゴ礁が巨大な層の石灰岩となって島を取り囲む、いわば「自然の防波堤」だ。 

 コスラエ島からチューク諸島へ向かって飛行機でアイランズ・ホッピングをすると、島の成り立ちが順番に見れてとても興味深い。
 まず、コスラエ島は島の周りに広いラグーンがない裾礁に近い地形だ。次に到着するポンペイ島は、島の周りをラグーンが取り囲み、堡礁が発達している。そしてチューク諸島へ行くと完全な環礁になる。最初はこの形で、次にこうなり、最後はこうなった、という島の成り立ちがそのまま順を追って眺められるのだ。

 上空からこの「地球の履歴書」を眺めるたびに「コーラルリーフがなければ人々の生活はどんなに変わっていただろう」と思う。リーフの在り方によって自然災害、住環境、交通、漁労など、生活を取り巻くすべてに影響してくるからだ。発達したコーラルリーフなくして、島の生活は成り立たないのだ。


■島の成り立ちⅠ
コスラエ島
まだ島が新しく、ポンペイのように周囲に広いラグーンを持たず、バリアリーフもあまり発達していない。そのため上空から眺めると、サンゴ礁に砕ける波が島のすぐ近くに見える。


■島の成り立ちⅡ
ポンペイ島
大昔、海面にあった島の裾をきれいに形取ったバリアリーフが、ほぼ円形に連なり発達している。中央の火山島は沈下し、周りに広いラグーンが広がる。パラオもこのような堡礁が発達した地形をもつ。


■島の成り立ち​Ⅲ
チューク諸島かつて中央にあった火山島が、ほぼ沈下した状態。ポンペイと同じくバリアリーフが円形に連なっており、その内側は世界有数の広いラグーン。低い島に属し雨量が少ない。

■高低による雨量差

 島の成り立ちによって重要になってくるのは、何といっても「水」だ。高い島と低い島では降雨量の差がとても大きい。
 ポンペイ島やコスラエ島など高い山がある島々は、雨に恵まれ、農作にも適した土壌がある。逆にチューク諸島やマーシャル諸島、キリバス諸島などに散在する低いサンゴ礁島は、雨が少なく土地も痩せている。
 
 ミクロネシアいち降水量が多いポンペイ島が、年間4500~5000ミリとオセアニアではハワイのカウアイ島に次いで多雨の島だ。日本と比べると屋久島(約4300ミリ)とほぼ同じ。ミクロネシアには日本の梅雨のような長雨はないが、雨期にはそれなりの降雨がある。

 よくガイドブックに「雨期と言っても時折スコールがある程度」と書かれていたりするがそんなことはなく、降るときはしっかり降る。文字通りバケツをひっくり返したようなドシャ降りが何時間も続くことさえあるのだ。
 
 災害につながる集中豪雨は困りものだが、それでも島にとって雨が降らないほど過酷なことはない。旅行者でさえ、晴天に恵まれても断水ばかりではうんざりしてしまうし、島の人にとっては死活問題。水事情は何より重要だ。

 十数年前までは、ポンペイ島の中心地でも、スコールがくると子供たちが外へ飛び出して、はしゃぎながら天然シャワーを浴びたり、川で大量の洗濯物を洗う女性たちの姿が見られたが、最近は水道設備が整ったためか時代の流れか、そういった光景も見なくなってしまった。ポンペイに住む友人にそう言うと、彼女は一言「今はもう洗濯機に乾燥機の時代よ」と。


■島の水事情

 ミクロネシアの水道設備はかなり地域差がある。水道が通っている地域もあれば、地方へ行くと井戸や川の水を引いて利用したり、飲料も生活用水も直接雨水を貯水しているところもある。
 
 チューク諸島の小島に滞在したことがあるが、水が必要なときだけ貯水タンクを開け、少しずつ雨水を使うというワイルドな生活だった。こんな体験をすると、蛇口をひねれば真水が豊富に出て、突然断水に見舞われることも少ない日本がどれほど水に恵まれた国かを実感する。
「日本人は水を無駄にする」と言われるが、確かに節水マナーがよい国民とはいえないだろう。水道設備が網羅され、日常で水がなくなる危機感がないからだ。水の貴重さは体験してみないことには身に染みない。 
 
 そして忘れてならないのは、多くの島の水は飲料に適さないこと。グアムに移住した日本人が「島で生まれ育った主人は平気だけど、私は生水を飲むとお腹をこわす」と言っていたから、生水を直接飲むのは控えた方がよさそうだ。
​ 島へ行ったらその土地の環境を考慮して節水や飲用に気を配りたい。

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