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オマガッタ 

​   Omengat   

すべてが黄色に染まるパラオ女性の儀式

肌はきれいになれど薬湯は怖し!の出産儀式とセレモニー

パラオで使われている1ドル札の中に、たまに黄色に染まった紙幣が混じっていることがある。

それはパラオの伝統儀式「オマガッタ(ホットバスセレモニーやホットシャワー、

ベビーシャワーともいう)」に使われた証で、

儀式で塗るウコン入りココナツオイルが染み付いためだ。
ホットバスセレモニーとは、パラオでは結婚式と同じくらい重要な意味をもつ出産儀式。

第一子が誕生して母親になった女性をねぎらい、親族で祝う習慣である。

が、だれもがこの儀式ができるわけではないという。

親が認めない、たとえば駆け落ちや未婚の母では儀式はできないそうだ。

昔は、親戚の中に一人でも結婚に反対する者がいると絶対できないというほど厳しかったそうだが、

今はそれほどでもなく、未婚であっても双方の親が認めたり、後に正式に結婚したり、

また再婚して最初の子供というような場合は、儀式をすることが多くなったという。

ようは一族になった新母子を祝うパラオ流「出産祝い」だ。

<まずは薬湯で洗礼>

 ホットバスセレモニーはいく通りかのプロセスがある。何日間の儀式を行うかはその家系によって異なり、全行程で4~10日間。高位な家系ほど長期かけ本格的に行うそうだ。儀式はビリュクルーと呼ばれるお椀を伏せたような形のテントの中で行われる。 

 まず、最初に行うのは「オメスル」と呼ばれる薬湯浴。これはパラオリンゴ「Rebotel」の葉など数種の薬草をグツグツ煮立てた湯を浴びる儀式あ。薬湯をココナツの殻にいれて、少し離れたところからかけるという。

 続いて「オメガット(オマガッタ)」というコプラや香りのよいイランイランなど、やはり数種の薬草を石焼き(最近は煮出す)したスチームで体内を清める身体洗礼。そして、最後に正装して一族の前にお披露目となる。


 最後のオメガットが終わった朝、若い母親はパラオの伝統的な装いをする。今はもう裸になることなどないパラオ人女性も、この日だけは伝統を重んじてトップレスになる。宗教上の問題やどうしても「裸はイヤ」という女性はパンダナスで編んだブラジャーを着ける。
身体にウコン入りの黄色いココナツオイルを塗って腰蓑を履き、ウエストを黒いベルトで締めあげる。結い上げた髪には家系の階級に則った花冠や鳥の羽を飾る。首にはパラオの伝統財貨「ウドウド」。片手にパラオリンゴの葉か花束を持って伝統的装いのできあがりだ。

 介添えの女性に付き添われて庭で待つ親戚一同の前に立つ。そして、セレモニー&パーティーが始まる。 

 セレモニーは結婚披露パーティーと同じで、氏族が大きいほど盛大に行なう。母系社会のパラオは女性の実家が食物を用意するしきたりがありので、会場は若い母親の実家だ。庭にテントを張り、食物や缶ジュースを山積みにして催す。ある大きな一族はローカルバンドの生演奏も頼んでいたほど盛大にやっていた。

 

 セレモニー当日、親族の女性たちは朝から忙しい。親戚で割り振った食べ物を持ち寄り、分配作業に追われる。セレモニーはお金がかかることもあって、最近はお披露目の日を週末の給料日に合わせるアレンジをしているようだ。一方、夫の実家が用意するのは、現金。昔はウドウドだけだったが、今はウドウドとアメリカドル。
 双方の親族が揃い、若い母親の足元に薬草入りのタライが置かれると、それまで遠巻きに見ていた親戚が、突然、歌いながら音楽に合わせて若い母親の前へとリズミカルに歩みだす。その踊り方といったら、沖縄の宴会でオジイ、オバアが両手をあげ、手のひらを回しながら腰を低くして踊る、あのカチャーシーにそっくりだ。パラオは第一次世界大戦後に日本の委任統治領で南洋庁の所在地であったので多くに日本人が住んでいた。移住した沖縄の人たちの踊りなども見る機会が多く、パラオの習慣になっていったのだろう。
 

 親戚たちはゆっくりと踊りながら若い母親の前で、なにやらひやかしのような歌をうたい、ココナツオイルがたっぷり塗られた身体にご祝儀の一ドル札を張りつけたり、腰みのに差し込んだり、それを何度も繰り返す。

 こうして黄色い一ドル紙幣が次々と誕生していくのである。
 ちなみに、このホットバスセレモニーを行っている間、手伝いをした親戚の持ち物には、しっかり黄色い「証」がつく。服もタオルもサンダルも。白い電話の受話器まで黄色にそまってしまうのだ。

 

<儀式にみるタブー>

 ところで、若い母親はセレモニーの間ずっと裸足だが地面を踏まない。庭まで移動するときはヤシの葉で編んだマットの上を歩くし、退場するときも同じく。理由を聞くと「昔からの習慣だかから」と。おそらく土はケガレという観念からきているのだろう。
 古来、島々では女性の生理や出産はケガレという観念があった。中央カロリン諸島では生理中の女性が隔離される、月経小屋や産小屋があったというし、一部の離島には今もあるそうだ。伝統儀式が少なくなったパラオで、ホットバスセレモニーが続いているのは、産後の身体を清める意味とお祝いを兼ねた母系社会らしい風習といえる。

siukang©Brisia
​パラオのローカルバンドの曲はこんな感じ
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